松本幸四郎 いいしらせ、みずほから。
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こんにちは。meiyoです。
五月花形歌舞伎をまたまた新橋演舞場で観てきました。昼の部の感想は「現代にも通じる普遍性 五月花形歌舞伎」というタイトルでブログに書かせてもらいましたが今回は夜の部を観ることが出来たのでその感想を書いておきたいと思います。
今回も会社からいただいたチケットです。しばらく会っていなかった、大阪に本社のあるアバレルメーカーでチーフデザイナーをしている友人を誘って観にいきました。
演目は…
曲亭馬琴:原作 三島由紀夫:作・演出 織田紘二:演出
通し狂言『椿説弓張月』(ちんせつ ゆみはりづき)です。
上の巻 伊豆国大嶋の場
中の巻 讃岐国白峯の場
肥後国木原山中の場
同じく山塞の場
薩南海上の場
下の巻 琉球国北谷斎場の場
北谷夫婦宿の場
運天海浜宵宮の場
配役
源為朝 市川染五郎さん
白縫姫/寧王女(ねいわんにょ) 中村七之助さん
高間太郎 片岡愛之助さん
陶松寿(とうしょうじゅ) 中村獅童さん
鶴 中村松江さん
亀 尾上松也さん
左府頼長の霊 大谷廣太郎さん
舜天丸(すてまる)
冠者後に舜天王(しゅんてんおう) 中村鷹之資さん
為朝の子為頼 中村玉太郎さん
武藤太 坂東薪車さん
大臣利勇 澤村由次郎さん
為義の霊 大谷友右衛門さん
阿公(くまぎみ)/崇徳(しゅとく)上皇の霊 中村翫雀さん
高間妻磯萩 中村福助さん
為朝妻簓江(ささらえ) 中村芝雀さん
紀平治太夫 仲村歌六さん
僕、このお芝居長年観たいと思っていたのです。大好きな作家、三島由紀夫さんが、曲亭馬琴の原作に想を得て書き下ろされ、ご自身で演出された「三島歌舞伎」の最高峰と言われるものなので今回観ることができて幸せでした。
「椿説弓張月」は文化4年(1807年)から同8年(1811年)にかけて刊行された、『保元物語』に登場する武将鎮西八郎為朝(ちんぜい はちろう ためとも)と琉球王国建国の秘史を描く、スケールの大きな展開の勧善懲悪の伝奇物語で「南総里見八犬伝」と並ぶ馬琴の代表作だそうです。今では「南総里見八犬伝」の方が有名ですが、刊行された当時は「椿説弓張月」の方が大人気だったそうですよ。
鎮西八郎と称した源為朝の活躍を『保元物語』にほぼ忠実に描いた前篇・後篇と、琉球に渡った為朝が琉球王国を再建(為朝が琉球へ逃れ、その子が初代琉球王舜天になったという学説があるそうです)するくだりを創作した続篇から構成されています。日本史のなかでも悲劇の英雄の一人に数えられる源為朝に脚光をあて、その英雄流転譚を琉球王国建国にまつわる伝承にからめたスケールの大きい物語です。
正式なタイトルは「鎮西八郎為朝外伝」の角書きが付いて『鎮西八郎為朝外伝 椿説弓張月』だそうです。『椿説弓張月』の「椿説」は「ちんせつ」と読みます。意味としては「珍説」と同じで、今でいう「異説」の古い表現ですね。この「説」という字は、「遊説」を「ゆうぜい」と読むように、「ぜい」と読むこともできるので「椿説」は、「ちんぜい」という読みが可能で、この「ちんぜい」が、読みが同じ「ちんぜい」の「鎮西」こと鎮西八郎為朝に掛かっているのです。これは歌舞伎の外題で多く用いられる、題名の中に主人公の名を暗示する文字や音を掛詞として織り込む手法で、古くから『椿説弓張月』は歌舞伎の外題風に「ちんぜい ゆみはりづき」と読まれることも多かったみたいです。勉強になりますね(笑)。
馬琴の原作を戯曲化したのが作家の三島由紀夫さんです。昭和44年(1969年)、僕の大好きないしだあゆみさんのブルー・ライト・ヨコハマが大ヒットした年の11月、東京国立劇場で初演されました。形骸化した当時の歌舞伎界に失望していた三島さんが、後の市川猿之助さんのスーパー歌舞伎に通じる、斬新な演出を随所に盛り込み、伝統的な義太夫歌舞伎の様式に構成した新作歌舞伎です。
初演時の配役は、源為朝に8代目松本幸四郎さん、阿公・崇徳院に2代目中村雁治郎さん、紀平治に8代目市川中車さん、高間太郎に3代目市川猿之助さんと一流の役者をキャスティングし、白縫姫には、当時まだ無名に近かった10代の5代目坂東玉三郎さんが抜擢され、玉三郎さんはこの舞台が絶賛され、以降の盛名に至る出世作となったのです。
三島さんは戯曲を書いただけではなく、演出も担い、公演全体の権限も得て、衣装、装置、照明にいたるまで最終決定権を持たれて、公演ポスターも横尾忠則さんを起用するなど自分の歌舞伎の集大成にしようと意気込んでおられたようです。しかし配役は自分の思うようにはいかなかったみたいですね。中川右介さんという方が書かれた「坂東玉三郎」という本によれば、同じ月に歌舞伎座で市川海老蔵さん(十二代目團十郎、今の海老蔵さんのお父様)の襲名披露公演が予定されていて、主だった役者さんは歌舞伎座へでることになっていたからだそうです。玉三郎さんの起用も三島さんが希望したわけではなく、襲名披露公演のリストに名前がなかったので選んだんだと書かれていますがどうなんでしょうね。でも結果的に玉三郎さんはこの作品で注目され、三島さんという後ろ盾を得ることが出来たのですから出演されてよかったってことですよね。
この公演を観て、玉三郎さんの魅力に取り憑かれた若い写真家がいたそうです。それは篠山紀信さんです。これが今に続くお二人のお付き合いの始まりなんですね。運命って面白いです。この初演、観たかったですね。
今回の公演もその初演時の三島さんの演出を基に構成されていたようです。面白かったですね~。「南総里見八犬伝」でも分かるように馬琴の書くものってファンタジーの世界ですよね。荒唐無稽という言葉がぴったりなのですが、でもちゃんと史実を交えて書かれているので、あり得ないけど、あったかもしれないと思わせる不思議な世界なんですね。伊豆大島や琉球が舞台なので、海のシーンが多いのですが、荒れる波の中に巨大な海魚が出現したり、魂が蝶になって助けてくれたり、霊が登場したりと舞台装置を駆使した迫力のある演出で、娯楽性を追求しようとした三島さんの想いが溢れた舞台だと思いました。
主役の為朝を演じたのは市川染五郎さんです。3、4、5月と染五郎さんのお芝居を観させていただきましたが、初役、大役続きで大変ですね!と思わず言ってしまいそうになりました(笑)。今回は花道に近い座席だったので、じっくりお顔を拝見させていただきましたよ。凛々しいだけではなく、寂しさも漂わせながら、運命に翻弄され、それでも強く生き抜くという主人公にびったりだと思いました。この作品は過去に3回上演されているそうで、初演の1969年に染五郎さんの祖父・白鸚さん(当時は八代目幸四郎)、再演の87年はお父様の九代目幸四郎さん、2002年には市川猿之助さんが為朝を演じてらっしゃいます。親子三代ですよ。3つとも観られた方もいらっしゃるでしょうね。そういうところが歌舞伎の面白さの一つなのではないでしょうか。
今回の白縫姫は中村七之助さん。お綺麗でしたよ。ほっそりとしてられるのに声の張りが良くて驚きました。明瞭でセリフも聞きやすかったです。白縫姫の見せ場といえば「中の巻」の讃岐国白峯の場です。為朝を裏切った、坂東薪車さん演じる武藤太を許せない白縫姫は、雪の降りしきる中、武藤太の着ているものをはぎ取らせ、侍女たちに嬲り殺させるのです。ふんどし一丁なんですよ。武藤太の身体に侍女たちが一人一人、代わる代わる竹釘を木槌で打ち込むのです。コンと打ち込むたびに叫び声をあげる武藤太。身体から流れ落ちる血。それを横目に平然と琴を弾き続ける白縫姫。三島さんが最も描きたかったシーンなんでしょうね。歌舞伎ならではの演出でした。残虐美、嗜虐趣味と呼ばれるものなんでしょうけど、観客席から「三島由紀夫らしいね」という声が聞かれました。三島さんってやっぱりこういうイメージでとらえられているんですね。
ストーリーを紹介していなかったですね。こんなお話です。
「上の巻」
崇徳上皇への忠誠を抱く源為朝は、保元の乱に敗れ、伊豆国大嶋に配流されますが、家臣の紀平治太夫や高間太郎、その妻磯萩らとともに島民をまとめ、再挙の時を窺っています。そこへ来襲した平家軍を見事撃退したものの、妻簓江を失い失意の為朝は、紀平治太夫と共に小舟で西へ向かいます。
「中の巻」
讃岐で現れた上皇の霊のお告げに従い、九州肥後へ向かった為朝は、妻白縫姫と息子舜天丸と再会します。一行は平家討伐のため船出しますが、大海原で暴風に見舞われ、高間夫婦ら大勢が悲壮な最期を遂げてしまいます、白縫姫は海神の怒りを鎮めるため、自ら身を海に投げるのです。危機に瀕した為朝は、上皇の霊が遣わした烏天狗に助けられ、紀平治太夫と舜天丸は黒蝶に変じた白縫姫の助けで怪魚の背に乗り、それぞれ琉球に漂着します。
「下の巻」
琉球国では巫女阿公らが、寧王女の正統な王位継承を妨げています。寧王女と忠臣陶松寿らの危難を救った為朝は琉球国再興を誓い、ついに阿公は滅ぼされます。平和を取り戻した琉球の島民は、新国王に為朝を推しますが、為朝はこれを固辞。その座を舜天丸に譲ります。そして、為朝は一同が引き留める中、故国日本を目指して天馬で天駆けて行くのでした。
ラストの天馬で賭けて行くシーンはやはりスーパー歌舞伎のように宙づりで観たかったです~。花道に作られた海の底から天馬が現れるという演出でしたが、三島さんはどうしたかったんでしょうか。過去の公演で宙づりだった回もあったそうですけど。今回もまた違った歌舞伎の魅力に触れることが出来て楽しかったです。一度観たいと思っていた「椿説弓張月」を観ることが出来て大満足です。友人とも久し振りに会えたしね。
6月も観にいければいいなあ。
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